【50人以上の事業場】安衛法や労基法にもとづく会社の義務を紹介!

企業の成長に伴い、従業員数が増えるのは喜ばしいことですが、10人、20人、50人と節目ごとに法的な義務も増えていきます。とくに、従業員数が50人を超えるタイミングは、組織構造が複雑化し、管理体制の見直しが求められる重要な局面です。

この記事では、従業員が50人以上になった際に必要な届出や義務をわかりやすく整理し、適切な労務管理を行うための情報を提供します。知らぬ間に法令違反にならないよう、必要な手続きを事前に確認し、計画的に準備を進めていきましょう。

1.従業員(労働者)50人以上のカウント方法

企業の義務は、従業員数に応じて変わりますが、従業員(労働者)50人以上とは具体的にどのようにカウントするのでしょうか。「常時使用する労働者」の定義は法令によって異なりますが、労働安全衛生法においては、雇用形態を問わず常態として使用するすべての労働者を指します。

「常態として使用する」とは、日雇労働者やパートタイマーなど臨時的な労働者を含め、継続的に雇用されている労働者のことです。また、派遣労働者については、派遣先・派遣元の双方で「常時使用する労働者」の数に含める必要があります。

1-1 事業場と企業の違い

法令上の義務を正しく理解するには、「事業場」の概念を把握することが重要です。「事業場」とは工場や支店、営業所など企業内の一部門や拠点を指し、「企業」とは経済活動を行う団体や個人を指す言葉です。

労働基準法に基づく通達では、同じ企業でも所在地が異なれば別の事業場とされますが、本社と支店が近接し業務が密接に関連する場合は、1つの事業場と見なされることがあります。

一方で、事業内容が大きく異なる場合(例:製造工場と営業所)は、近接していても別事業場とされることが多いです。具体的な判断が必要な場合は、所轄の労働基準監督署に確認しましょう。

1-2 人数をカウントするタイミング

従業員数のカウントは、実態に即して判断する必要があります。例えば、現在49人が在籍しており、4月1日に1人が入社して50人に達する場合、4月1日から50人以上の事業場としての義務が発生します。50人以上となった時点で速やかに対応することが求められます。

具体的には、50人以上となると確定した段階で事前に準備を始め、実際に50人を超えた日から、定められた期日内に必要な選任や届出を完了させることが望ましいでしょう。なお、一時的な増減ではなく、恒常的に50人以上となる見込みがある場合に義務が発生するため、事業の状況を踏まえた判断が重要です。

2.労働安全衛生法の義務

従業員数が50人以上になると、労働安全衛生法に基づく6つの義務が発生します。ここでは、それぞれの具体的な内容と実施方法について解説していきます。

2-1 1.産業医の選任

産業医の選任は、従業員の健康管理や職場環境の改善に関して専門的な助言を受けるため、非常に重要です。労働安全衛生法施行令第5条に基づき、「常時50人以上の労働者を使用する事業場」では、少なくとも1人以上の産業医を選任する必要があります。

事業場規模(使用労働者数)産業医の数選任形態
常時50人以上~999人以下
1人以上
常時1,000人以上~3,000人以下
専属
常時3,001人以上~2人以上
常時500人以上かつ有害業務に従事事業場規模に応じた人数専属

また、一定の要件に該当する場合は専属産業医の選任も必要です。従業員が50人以上に達した日から14日以内に産業医を選任し、選任報告書を労働基準監督署に届け出ましょう。

産業医について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。

関連記事:『【産業医監修】産業医は何をする人?人事担当なら知っておきたい産業医の基礎知識

2-2 2.衛生管理者の選任

衛生管理者は、従業員の健康障害を防止するために、職場の衛生環境を管理する重要な役割を担います。労働安全衛生法施行令第4条に基づき、「常時50人以上の労働者を使用する事業場」では、少なくとも1人以上の衛生管理者を選任する必要があります。

一定の要件に該当する場合は専任衛生管理者の選任も必要です。

常時使用する労働者数が50人以上の事業場業種に関わらず「専属」の者を選任
常時使用する労働者数が1001人以上の事業場衛生管理者のうち少なくとも1人を「専任」とする
常時使用する労働者数が501人以上で、坑内労働または健康上とくに有害な業務に常時30人以上を従事させる事業場衛生管理者のうち少なくとも1人を「専任」とする

従業員が50人以上に達した日から14日以内に衛生管理者を選任し、選任報告書を労働基準監督署に届け出ましょう。なお、特定の業種に該当する場合は「安全管理者」または「安全衛生管理者」の選任も必要です。

衛生管理者について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。

関連記事:『【産業医監修】衛生管理者とは?選任基準や種類・業務内容・資格概要を解説

2-3 3.衛生委員会の設置

衛生委員会は従業員の健康を守るため、職場の衛生に関する重要事項を調査審議し、対策を講じるために設置される社内の機関です。労働安全衛生法施行令第9条に基づき、「常時50人以上の労働者を使用する事業場」では、毎月1回以上の開催が義務付けられています。

なお、特定の業種に該当する場合は「安全委員会」または「安全衛生委員会」の設置も必要です。

衛生委員会のメンバーには、事業を統括管理する者や衛生管理者、産業医、安全衛生に関する経験を有する従業員等を含めなければなりません。労働基準監督署への届出は不要ですが、議事録を作成して3年保管する義務があります。

衛生委員会について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。

関連記事:
【産業医監修】衛生委員会とは?設置基準やメンバーと役割・進め方を解説

【産業医監修】衛生委員会テーマの決め方とは?年間テーマ例を紹介

2-4 4.ストレスチェックの実施

ストレスチェックとは、従業員自身のストレス状態を把握するための質問票調査です。労働安全衛生法第66条の10に基づき、「常時50人以上の労働者を使用する事業場」では、年1回以上のストレスチェックの実施が義務付けられています。

ストレスチェック実施後は、年1回「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を労働基準監督署に提出して実施状況を報告しましょう。また、ストレスチェックの結果は5年間保存の義務があります。

ストレスチェックについて詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。

関連記事:『【産業医監修】ストレスチェックとは?目的や実施方法・注意点を解説

2-5 5.定期健康診断結果報告書の提出

定期健康診断とは、従業員の健康状況を把握するため、定期的に実施する健康診断です。労働安全衛生法第66条に基づきすべての企業に実施が義務付けられており、「常時50人以上の労働者を使用する事業場」では、定期健康診断の結果について労働基準監督署への報告が必要です。

報告は、その年の最後の従業員が定期健康診断を受けてから遅滞なく(およそ1ヶ月以内程度)に行う必要があり、所定の様式を使用します。また、結果に基づく健康診断個人票の作成と5年間の保存義務があります。

健康診断について詳しくは、こちらの記事を参考にしてください。

関連記事:
【企業の義務】健康診断の種類を一覧でチェック!診断項目や費用・注意点を解説

【産業医監修】雇入れ時健康診断とは?受診時期や費用負担・実施の流れを解説

2-6 6.休養室・休養所の設置

休養室・休養書の設置は、事務所衛生基準規則第21条および労働安全衛生規則第618条に基づく義務です。「常時50人以上または常時女性30人以上の労働者を使用する事業場」では、男女別の休養室または休養所を設置する必要があります。

設置にあたっては、適切な広さの確保や清潔な環境の維持が求められます。また、休養室以外にも、便所の設置や照度の基準など、労働環境に関する細かな基準にも注意が必要です。厚生労働省の『事務所における労働衛生対策』を参考に措置を講じましょう。

3.あわせて確認!50人未満の義務

従業員数が50人に達する前にも、10人、20人といった節目ごとに発生する義務があります。現在50人未満の企業も、必要な手続きを見落としていないか改めて確認しておきましょう。

3-1 就業規則の作成

「常時10人以上の労働者を使用する事業場」では、労働基準法第89条に基づき、就業規則の作成が義務付けられています。作成した就業規則は、労働基準監督署への届出が必要です。従業員の意見を聴取したうえで作成し、変更の際も同様の手続きを行いましょう。

就業規則の作成・届出義務は「事業場」単位で適用されるため、本社とは別に支店ごとに作成・届出が必要になる場合があります。就業規則は、労働条件や職場のルールを明文化するものであり、従業員とのトラブルを防ぐ役割も担うため、未対応の場合は早めに準備を進めましょう。

3-2 高年齢者雇用状況報告

「常時21人以上の従業員を雇用する企業」は、高年齢者雇用安定法に基づき、毎年6月1日時点の高年齢者雇用状況の報告が義務付けられています。この報告は、企業における高年齢者の雇用状況を把握し、適切な雇用対策を促進する目的で実施されています。

従業員が20人以上の企業には、厚生労働省(ハローワーク)から「高年齢者雇用状況等報告書」(様式第2号)が送付されるため、記入・提出が必要です。未提出の場合、行政から指導が入る可能性があるため、報告期限を確認して確実に提出しましょう。

高年齢者雇用安定法について詳しくは、こちらのHRzineに掲載した記事も参考にしてください。

関連記事:『高年齢者雇用安定法とは? 65歳までの雇用確保措置や高年齢者雇用状況等報告書の届出義務

出典:『高年齢者の雇用』厚生労働省

3-3 障害者雇用状況報告

「常時40人以上の従業員を雇用する企業」は、障害者雇用促進法に基づき、毎年6月1日時点の障害者雇用状況の報告が義務付けられています。この報告は、障害者雇用の実態を把握し、雇用促進のための施策を講じる目的で行われます。

また、障害者の雇用を促進するため、法定雇用率が設定されています。法定雇用率は現在引き上げ途上で、2024年4月時点では民間企業で2.5%です。法定雇用率を満たしていない場合、障害者雇用納付金の納付も必要になるため、最新の基準を確認して対応しましょう。

障害者雇用促進法について詳しくは、こちらのHRzineに掲載した記事も参考にしてください。

関連記事:『障害者雇用促進法とは? 障害者雇用率制度の概要と引き上げ

出典:『事業主の方へ』厚生労働省

3-4 社会保険の適用(51人以上)

2024年10月の法改正により、「厚生年金保険の被保険者数51人以上」の企業では、パート・アルバイトなどの短時間労働者に対する社会保険の適用範囲が拡大されました。この改正により、これまで任意加入だった短時間労働者のうち、以下の条件を満たす場合は社会保険の加入が義務化されます。

  • 週の所定労働時間が20時間以上30時間未満
  • 所定内賃金が月額8.8万円以上
  • 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない

今後も適用範囲のさらなる拡大が見込まれるため、最新の法改正情報を随時確認し、適切な対応を行いましょう。

出典:『社会保険適用拡大 対象となる事業所・従業員について』厚生労働省

3-5 安全衛生推進者(衛生推進者)

「常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場」では、安全衛生推進者または衛生推進者を選任する必要があります。安全衛生推進者は、安全衛生水準の向上を図るため、従業員の安全や健康確保に関わる業務を担当します。

安全衛生推進者または衛生推進者を選任しなければならない事業場は、次の通りです。

出典:『安全衛生管理体制のあらまし 』新潟労働局

従業員が10人以上に達した日から14日以内に安全衛生推進者(衛星推進者)を選任しましょう。なお、労働基準監督署への届出は不要です。

4.従業員が50人以上になった際の義務【チェックリスト】

ここまでご案内してきた通り、従業員が50人以上になると発生する法的義務は多岐にわたります。これらの義務を適切に対応できるよう、重要なポイントをまとめた oneself.オリジナルのチェックリスト をご用意しました。

oneself. 事業場の従業員が50人以上になった際のチェックリスト

無料でダウンロード

事前に確認することで、必要な手続きをスムーズに進められるでしょう。ぜひチェックリストをダウンロードし、貴社の労務管理にお役立てください。

5.従業員50人以上の義務対応、計画的に進めましょう

従業員数の増加に伴う義務の発生は、企業の成長の証でもあります。計画的に準備を進め、コンプライアンスを遵守しながら従業員が安心して働ける職場環境を整えましょう。何から始めるべきか迷った際は、産業保健師や産業医などの専門家に相談するのも1つの方法です。

【この記事のまとめ】

・従業員が50人以上になると、労働安全衛生法に関する多くの義務が発生する
・従業員数のカウント方法は、「事業場」単位のものも多い
・チェックリストを活用し、計画的に対応を進めることが重要

株式会社oneself.では、保健師・産業医の専門チームが企業の健康管理を伴走支援する「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供しています。チャットでいつでも産業保健のプロに相談し放題。従業員50人以上から発生する法的義務への適切な対応に、ぜひご活用ください。

企画・編集:横内さつき
執筆:うちやま社会保険労務士事務所 代表 内山美央 /oneself.産業保健師一同


小橋 正樹

監修小橋 正樹

株式会社oneself. 代表取締役|統括産業医

2010年、産業医科大学医学部を卒業。その後、3年間にわたる救急病院での診療経験を通じ、働く人の健康が大切だと改めて実感。2013年、産業医活動を開始。スタートアップ企業の体制づくりから外資グローバル企業の統括マネジメントまで、合計で30社を超える組織の健康管理に伴走。そのなかで、産業医有資格者数の中でも1%以下の保有率と言われる産業医の専門医・指導医資格などを取得。2019年、本質的な産業保健をより広めるためには企業社会への更なる理解が必須という想いで自ら経営者となることを決意し、株式会社oneself.を設立。2023年、誰もが確かな価値を実感できる産業保健サービスを社会へ届けるため「THE OCCUPATIONAL HEALTH.」を提供開始。


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